叶わぬ恋と分かれども(短編集)
「和奏のせいだよ、俺らの風邪は」
「げほほっ、ごっほん!」
「なんでよ」
情報を小出しにされ、状況が全く分からない。ただただ困惑するばかりだ。むしろそろそろ、つらそうなふたりを見て可哀想に思えてきた。
「俺らゆうべ、朝番の勤務が終わったあと、八時から三時間、和奏のアパートの前にいたの」
「は?」
「しかもふたりでサンタの恰好して。げっほ、ごへっ」
ようやく風邪をひいた理由を聞いても、状況は全く分からなかった。意味も分からない。
「純平もサンタの恰好したの? 一真はトナカイ?」
「ふたりともサンタだよ! ダブルサンタだよ!」
やっぱり意味が分からない。お調子者の一真ならやりかねないけれど、普段クールな純平までそんなことをするなんて。
二十代半ばのふたりがそんなことをしてしまった理由をうんうん唸りながら考えていると、「だから」と純平が切り出した。
「昨日のクリスマスイブ、俺と一真で和奏の部屋に押しかけようとしたんだ」
「サンタの恰好で?」
「プレゼント持って。げっほ……」
「‥なんで?」
「選んでもらうため」
「和奏に」
「俺か一真か」
純平は充血した目を細め、一真はにへらっと情けなく笑い、「さあ、どっち?」と声を揃えた。まるで最初から台詞が用意してあったかのように息ぴったり。言ったあと、やはりふたり同時にロッカーを開け、取り出した小さな包みを差し出したのだった。
ずずいっと、目の前まで伸びてきた二本の腕に、わたしはどうすることもできず、ただ差し出された小さな包みを交互に見ていた。