叶わぬ恋と分かれども(短編集)
「今晩また行くから、そんとき、また選んで」
「は、はい?」
「あ、いい、げっほ、イイネ!」
一真も笑顔で同調し、プレゼントを引っ込める。結局わたしは、何にせよどちらかを選ばなければならないらしい。それは決定事項らしい。
「今から退勤までの八時間、働きながらちょっと考えてみて」
プレゼントは引っ込められたけれど、代わりに伸びてきた純平の手が、わたしの右手を握る。
「きっと、好きんなってもらえると思う! ごほっ」
左手は一真。
「好きだから、和奏が」
そして、告白された。
「ず、ずるい! おれだって和奏が好、げほっ、げほっ……」
一真からも。一体どうなっているんだ、今年のクリスマスは。
「じゃあ仕事するか」
右手が解放された。
「へっくしょん! ずずっ、店長、夕礼始めてくださーい。おれは一旦帰って、もっと良いプレゼント探しに行かなきゃ」
左手も。
「俺は残り四時間、和奏に良いとこ見せなきゃ」
「ず、ずるいよ純平……!」
「一真はプレゼント物色に行くんだろ。おまえのがずるいじゃねぇか」
言いながらふたりは勢い良く立ち上がり、朝番の勤務を終えた一真はエプロンをはぎ取る。昼番の純平は休憩を切り上げ売り場に戻るみたいだ。一真はすっかりオフモード、純平は仕事モードの顔になった。
今の今までぐったりげっそり、風邪っぴきの表情だったのに。何がここまで彼らを駆り立てるのか……。
店長はふたりの背中を見送ると、静かに持っていた連絡ノートを開き、やっぱり困惑した顔で夕礼を始めた。
そして夕礼が終わると、苦笑しながら「ファイト」と言ってわたしの肩をぽんと叩く。村山さんは「和奏ちゃん、モテるね……」とドン引き顔のまま言ったのだった。
本当に、どうなっているんだ、今年のクリスマスは……。とりあえず、これから八時間、ふたりのことを考えながら働かなければならないらしい。ため息をついて、休憩室のドアノブに手をかけた。
なんだか、頬が熱かった。どうやら、ふたりに移されてしまったようだ。
風邪も、恋も……。
幼い頃絵本で見たサンタは、赤い服を着て白い髭をたくわえ、トナカイに乗ってやってきた。でも大人になった今、わたしの元にやって来たサンタは、真っ赤な顔でくしゃみと咳をしながらやってきた。
(了)