叶わぬ恋と分かれども(短編集)


 私を含めた包装未経験組も、何度か練習をすると、それなりに包めるようになった。
 それでもやっぱり時間がかかってしまう。大量の買い取りや、レジに長蛇の列ができてしまったときは、上手くいかないかもしれない。


 そんな私たちの不安を、店長はすぐに晴らしてくれた。
 包装紙で作った大小様々な大きさの袋と、リボンをくるくる巻いてホチキスで留めた飾りを、たくさん作って持って来てきれたのだ。
 丁寧に包む時間がないときや、包むには形や大きさが微妙なときは、この袋に入れてリボン飾りを貼る。リボンにはあらかじめ両面テープが貼られているから、それを剥がすだけ。これならすぐにできそうだ。

 さすが店長。本当に頼りになる良いお兄ちゃんだ。


 そんな長男的な店長の優しさは、今月のシフトでも遺憾なく発揮された。
 クリスマス前後に希望休を出したスタッフたちのため、店長だけ変則連勤が組まれたのだ。
 できるだけ希望休を叶えるため、そして他のスタッフのいつものシフト通りに入れるため、店長だけがえげつないシフトになっている。


 そのえげつないシフトを見て、私は確信した。
 いや、働き始めてから三ヶ月の調査結果がはっきり出たと言ってもいい。

 店長に、恋人はいない。いるわけがない。

 だってもし恋人がいたら、クリスマス前後にこんなえげつないシフトを組むはずがないもの。
 それに店長は希望休を取ったことがないし、退勤後にいつも残って仕事をしているし、クレームやら何やらで電話するとすぐに駆け付けて対応してくれるし。
 そんなひとに恋人がいるわけがないのだ。指輪もそれっぽいアクセサリーも付けていないから、きっと結婚もしていないだろう。

 こんな無茶苦茶な勤務状況のひとと付き合う彼女は、相当な理解者か相当な放任主義者しか有り得ない。それから、彼のライフスタイルに完璧に合わせることができる同業者か……。

 だから私は決心した。
 クリスマスに、店長にアプローチする。

 普段朝番で入っている私が、希望休を出したスタッフたちの穴埋めで、二十四、二十五日は遅番に入る。その日は店長も遅番だ。
 うまくいけば退勤後に食事に誘うくらいできるだろう。もし一緒に出掛けることができたら、その日のうちに告白もできるかもしれない。

 同じ仕事をしている私なら、彼と難なく付き合うことができる。良い理解者にもなれる。
 それを武器にアプローチする。もし良い返事がもらえなかったとしても、しっかり自己アピールをする。

 今の時点では恋愛対象として見ていなくても、自分にアプローチしてきた異性は気になるだろうし、私は私でしっかり働いて、アピールしていけば、好きになってもらえるかもしれない。

「クリスマスにがっつり入ってもらって悪いね」

 完成したシフト表を見て苦笑した店長に「デートする相手もいませんし大丈夫です」と。しっかりフリーアピールもしておいた。あとはクリスマスを待つばかり。



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