叶わぬ恋と分かれども(短編集)


 だけど、そううまくはいかなかった。
 二十四日の夜。閉店時間が迫る頃になって、突然社長がやって来て、店長と長く話し込んでいた。
 かと思えば閉店作業のあと、店長は社長に連れて行かれてしまった。
 どうやら社長たちお偉いさん方、支部長や各店の店長たちの集まりがあるらしい。

 なにもクリスマスイブに集まらなくても……と思っていたら、副店長の富沢さんが色々教えてくれた。

 うちの店の本社は県外にあるから、社長たちは頻繁にこっちに来ることができない。しかも店は他の県にもたくさんあって、年末に労いに回るのも大変。今年中にあちこち回るためには、クリスマスだ何だと言っている場合ではないらしい。

 それなら仕方ない。勝負は明日もできるから、二十五日に賭けることにした。


 そして十二月二十五日の夜。出勤から数時間。
 どうにかして店長を誘えないか悩み続け、タイミングを計っていた。

 タイミングは、なかなか見つからない。
 今日はクリスマスでもあるけれど、年末でもある。
 出勤してからぽつぽつと包装を頼まれ、特に予定のないお客さんたちは年末の大掃除で出たであろう大量の本やゲームソフトを持って来て、なんだか慌ただしい。

 私もようやく買い取り査定を終え、買い取ったばかりのゲームソフトの商品化に移る。
 ケースからディスクを抜き取り、傷が付いているものは研磨機に入れる。研磨が終わるのを待つ間、ケースのバーコードを読み込み、タイトルや値段が書いてあるシールを印刷する。それをケースに貼る前に、消毒用のアルコールを噴きかけたタオルで綺麗に拭く。ディスクは品番を書いた不織布ケースに入れていく。

 数ヶ月ですっかり慣れた作業をしながら、ちら、と店長を見ると、ちょうど包装を終え、お客さんにそれを渡したところだった。

 今なら、声をかけられるだろうか。

 持っていた不織布ケースをそっと置き、一歩、店長に近付いた、のとほぼ同時。

 出入り口側のカウンターで買い取り査定中だった先輩バイト、和奏ちゃんの「いらっしゃいませ~」が響き、店長が顔を上げる。
 そしてそちらを向いてぱあっと明るい表情をしたから、私もつられて視線を移した。



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