愛を呷って嘯いて
左手で頬杖をつきながら右手でポットを持ち上げ、サーバーに落ちるコーヒーを見つめていた。
そしたらその匂いに誘われたのか彼が目を覚まして唸り声を上げた。
「いいにおいがする、うう、頭いて……」
むくりと起き上がって頭を抱えた彼に「おはよう」と声をかけると、ちゃんと「おはよう」と返ってきた。
返事が「ああ」じゃない。ただそれだけの出来事なのに、わたしにとっては最高の出来事。
嬉しくって、ポットを持つ手が震えた。一緒にお酒を飲んだことで、ごく普通の挨拶ができるようになった。ここまで来るのに十四年。長い長い道のりだった。
「コーヒー、俺の分もある?」
掠れた声で、彼が言った。
「あるよ。二日酔いにはまずコーヒーだしね」
答えたわたしの声は、震えていた。
「コーヒーって二日酔いに効くんだ?」
「らしいよ」
「他にもある?」
「うーんと……しじみのお味噌汁、トマト、梅干し……。ああ、あと卵とかハチミツ」
「ふーん……」
彼はもう一度唸り「おまえは何でも知ってるな」と呟きながら、ずり落ちたタオルケットをたたんで、のそのそと立ち上がる。動きが鈍い。わたしはどれだけ飲んでも二日酔いをしたことがないから、その気持ちは分からないけれど、相当きついみたいだ。