愛を呷って嘯いて
サーバーを軽く揺らしてからコーヒーをカップに注ぐと、正面に座った彼が「すごいな」と唐突に切り出した。視線の先にあるのはドリッパーと、ペーパーフィルターに残った抽出後のかす。
「インスタントじゃないなんて」
そう続ける彼の前にカップを置いて「うーん?」と首を傾げる。
「すごくはないよ。豆から挽いたわけじゃないし」
「いや、俺は毎朝インスタントか缶コーヒーだから。面倒だし」
ふむ。彼の朝はインスタントコーヒーか缶コーヒーか。また新しい情報を得た。
彼の「うまい」を聞いてふふと笑って、わたしもコーヒーを一口。うん、おいしい。
「おまえ、二日酔いは?」
「わたしは大丈夫」
「酒強いんだな。ウイスキー飲んでるだけある」
「そ、そんなに飲んでないよ。普段はお父さんと一緒にビールだし……」
「晩酌付き合ってるんだ」
「ナイター観ながらね」
「野球好きなの?」
「スポーツは何でも観るよ」
「何でもって?」
「野球もサッカーも体操も水泳もバレーも。冬はフィギュアスケートやスキーも観るし、日曜日に時間が合えば競馬中継も観てるよ」
「競馬? もしかして馬券買うの?」
「ううん、テレビで観るだけ。馬が格好良くて」
「ただの馬好きか」
「なんだと思ったの?」
「酒飲みながらナイター観たり、競馬に興じるおっさんかと」
「まさか。やめてください……」
「それで?」
「うん?」
「おまえはゆうべのこと、どこまで憶えてるんだ?」
「え?」