愛を呷って嘯いて
今まで付けたどのボタンより丁寧に、時間をかけて、しっかりと、まるで売り物のように完璧に仕上げ、彼にジャケットを返した。
彼は仕上がりに満足してくれてようで、じっとジャケットを見たあと「サンキュ」と言ってくれた。
その一言が、どれだけわたしの心を溶かすか。知りもせずに……。
その日の夜は、彼のリクエスト「高野豆腐が入った煮物」を作って、ふたりで食べた。
彼は「手伝う」と言ってくれたけれど、こんな日が来るのを十四年間待っていたのだ。丁重にお断りして、気合いを入れて煮物を作った。
それこそ、十四年分の想いを込めて。腕によりをかけまくって。
彼は「うまいよ」と短い感想を言ってくれた。「母さんの味に似てる。やっぱり親子だな」とも言ってくれた。
「そう……かな?」
「うん。一人暮らし始めた頃、母さんがしょっちゅう食い物届けに来てくれてたんだ。煮物とかハンバーグとか炊き込みご飯とか色々。その味に似てるよ」
「そっか……まあ、親子だしね」
ああ、良かった。わたしの十四年は、今この瞬間のためにあったんだ。心からそう思った。無駄じゃなかった。あのときの悲しみも、苦しみも、決意も。全部全部、この人とこうして普通に向かい合うときのためにあった。
悲しみや苦しみが、少しだけ報われたような。そんな気がして、わたしも煮物を頬張る。
でも胸がいっぱいでなかなか箸が進まなくて、お茶でそれを胃に流し込んだ。