愛を呷って嘯いて
間もなくお母さんはあの優しそうな男性と結婚して、わたしたちは野崎家に移り住んだ。
新しいお父さんはお母さんの言う通り優しくて、子ども好きで物知りで、わたしのこともまるで本当の子どもみたいに接してくれたから、すぐに仲良くなれた。
でも彼とは仲良くなるどころか、まともに会話すらできないまま。交わした会話は「おはよう」「ああ」か「おかえりなさい」「ああ」か「おやすみなさい」「ああ」くらいだった。せっかく兄妹になったのに。せっかく好きな相手ができたのに……。
どうしてこんなことになっているのか。足りない頭で嫌われた理由を考えてみた。
思えば初対面のときから嫌われていた。あの日彼との会話はなかったし、緊張でお父さんからの質問にも上手く答えられなかった。ただ豪華な料理をちびちび口に運んでいただけ。だから失言をして嫌われたというわけではないだろう。
それならわたしの容姿に問題があったのかもしれない。いくら可愛いワンピースを着て美容院で髪をセットしてもらっても、元は十三歳の子どもだし。テーブルマナーがなっていなかったから、という理由も考えられる。
ホテルのレストランで食事なんて初めてだし、むしろ外食なんてほとんどしたことがなかったから、何をどうしていいのか全く分からなかった。使い慣れないナイフやフォークをぎこちなく使う姿が、彼には行儀悪く見えたのかも。
父親の再婚相手の連れ子がわたしみたいな子だったから、がっかりしたのかもしれない。
いくら考えてもこれは全て推測でしかない。もっと別の理由があるかもしれないけれど、それは本人に聞いてみないと分からないのだ。