恋駅


「俺は、サラリーマンになります!」


「………え、サラリーマン!?」



意気込んで答えた彼。

……ごめん、もっと違うものを想像してた分、
びっくりして聞き返しちゃった。



「はい、サラリーマンです!」


「えっと………」



職業、というか、なんというか………。

意外な答えに、戸惑う。



「手に職を持つのもいいと思うんですけど
朝、普通に会社に出勤して仕事して
夜には家に帰って家族と一緒にご飯を食べる。

そういう時間が作れる
サラリーマンになりたいです」


「それ、は」


「職人さんは凄いです。憧れます。
だって誰でもできる仕事じゃないですから。

けど、俺はそれで
家族との時間が取れなくなるのであれば、
ちゃんとそういうのも
大切にできる会社に入りたい。

家で奥さんと、子供と
晩御飯を一緒に食べる、
そういう幸せが欲しいんです。

働き詰めは嫌ですしね。

あ、もちろん
サラリーマンを馬鹿にしてるわけでも
楽勝!なんて思ってるわけでもないですよ?

ピシッとスーツを着こなしたいっていう
気持ちはありますが」



拳をグッと胸の前で作って
意気込む空くんに
何故だか、笑いがこみ上げてきて。


「あ、あははっ!!」



つい、吹き出してしまう。


……面白い。
面白いよこの子!



サラリーマンになりたい、なんて
大雑把すぎて
多分まだ大まかな願望でしかないんだろうけど

あぁ、でも
もうそこまで見据えてるのね。


家族ができた時。子供ができた時。
仕事人間になるんじゃなくて
家庭のこともちゃんと見守っていきたい。
そういう思いが滲み出てる。


どんな会社に入って、どんな仕事をしたいのか
まだそういう細かいことは
明確じゃないんだろうけど

……サラリーマン、か。


せっせかと歩き回り
スーツをビシッと着こなして
でも帰りの電車の中ではよれよれ。

そんな人達はやっぱり誰かのために
そして生きるために働いている。


深い意味で捉えていくと
サラリーマン、
かっこいいんじゃないの。


立派な夢じゃないか。

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