君と永遠に続く恋をしよう
「奈央、桜庭さんが帰られるわよ」


階下から母の声が聞こえるけど、私は部屋を出て行かなかった。さっきから心臓の音が煩くて、どんな顔をして彼と会えばいいのかが分からなかったからだ。


母が彼に向いて「すみません、不躾な娘で」と謝ってる声が聞こえた。


(不躾はどっちよ!)


憤り、彼の唇が触れたところをゴシゴシとティッシュ擦る。

桜庭さんは母が呼んだタクシーに乗って帰ったみたいだ。
飲んだ挙げ句に世話になるなんて、本当に何処までも最低な人。


(しかも、あのキスは何よ!)


飲み過ぎて、かなりぼぅっとしてるから大丈夫かなと気になっただけなのに。
父は母に任せておけばいいと思い、私は彼の方を気遣おうとしたのに。


(失敗した。いつも兄さんから「お人好しになるな」と言われてたのに)


ついガードを甘くした。

平野さんのことを自分から振っておきながら、勝手に「飲んだくれ」だと捻くれて、いじけてしまうから妙だなと思った。


(それにあんな間近で見つめられたら、どうにも胸が騒いで恥ずかしくて…)


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