俺様社長の溺愛~大人の恋を指南して~
それからの私たちの間は、ただ沈黙が続き、それでも仕事はしなければならず、この重い空気に耐えるしかなかった。

家に戻ってからも、私は心ここにあらずといった感じで、事務的に家事をこなしていた。

…いつもなら、同じベッドに寝るはずなのに、社長は来ることはなく、もう耐えられなくなった私は、リビングにいる社長のもとに向かう。

この、ほんの数歩の距離が、何十メートルにも思えてならない。

「良樹さん」
「…結愛、おいで…大事な話をしよう」

大事な話をしよう。それを受け止めることが、今の私にできるのか、私は手を握りしめたまま、社長の隣に座った。

私の不安が直ぐに分かった社長のは、握りしめたまま私の手を優しく包み込んだ。

「不安にさせてゴメン…西園寺専務が言ってたのは、優子は、俺のフィアンセだった人だよ…でも、まさか、西園寺専務と兄妹だったなんて、知らなかった。優子は自分の素性を一切明かさないまま、この世からいなくなったから」

私は、息を呑んだ。

「この世からいなくなったからって」

「優子は自分が末期のガンだと言うことすら、死ぬまで明かさなかったから」

そう言った社長の顔は、悲痛に歪んでいた。
< 87 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop