皇帝陛下の花嫁公募
 何しろ初老のネスケルは父の代からの宰相だからだ。アンドレアスもネスケルの言葉にはいつも耳を傾けている。

 もっとも、今は違う。

 ネスケルの言うようなことをしている暇は、今の自分にない。

「いいえ、これはこの国にとって大切なことです、陛下!」

 彼は自分から引くつもりはないらしい。

 アンドレアスは無言で立ち上がると、窓のほうを向いた。ここから帝都が見渡せるのだ。多くの家が建ち並び、そこでは多くの人々が楽しく暮らしている。自分は彼らを守る義務があった。

 アンドレアスは紺色の軍服を着ている。皇帝だけが身に着けられるこの軍服には金色の肩章や飾りがついていて派手には見えるが、ここは戦場ではない。

 宮殿にふさわしい、そして皇帝にふさわしい上品な格好をすべきなのかもしれないが、ヴァンダーンは隣国と争いを繰り返しているため、いつまた小競り合いが始まるとも限らない。

 だから、自分の執務室でも軍服を脱ぐ気にはなれなかった。
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