皇帝陛下の花嫁公募
 そして……。

 いよいよ、リゼットの番だ。

 中庭に出たことで、衛兵も集まってきた。宮殿の外壁に板が立てかけられ、そこに的が用意してある。弓と矢が渡され、リゼットはその具合を確かめた。

「どこか田舎の国の王女様らしいわよ」

「道理で時代遅れなわけだわ。弓を射るなんて……」

「見てよ、あのドレス。いつの時代のものかしらね」

 宮殿で働く女官ともなれば、きっとある程度の身分のある者達なのだろう。花嫁候補でもないのに、彼女達はなかなか辛辣だった。

 もしアマーナリアがそこそこ裕福な国ならば……。

 リゼットはここには立っていなかった。皇帝の花嫁になろうとも思わなかっただろう。万が一、やってきたとしても、こんな意地の悪い女官達がいるような宮殿に嫁ぎたいとは、絶対思わなかった。

 でも、これは故国のためだから。

 国王夫妻である両親のため。国を継ぐ王太子ハンスのため。貧しいながらも笑みを絶やさない国民のため。

 リゼットは矢を構えた。

「少し肩慣らしをしていいかしら」

「どうぞ」

 リゼットは何回か力を抜いて矢を放った。どれも的に当たらなかったため、クスクスと笑い声が起こる。衛兵からも馬鹿にするような囁き声が聞こえた。

 息を大きく吸う。

「行くわ」

 そして、矢をつがえ、弓を引いた。
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