皇帝陛下の花嫁公募
 そもそも皇帝とは、軍を統括する立場でもある。いや、少なくともこの国ではそうだ。どんな者よりも責任が重い。常に力強い自分を兵士達に見せなくては示しがつかなかった。

 そのため子供の頃から兵士に混じって、身体を鍛え、銃や剣の稽古は人一倍してきた。だからこそ、兵士達は自分に一目を置き、信じてくれるのだ。

 平和な頃ならともかく、今はその辺の太った貴族のように自分を飾り立てるつもりはなかった。そんなことをしている暇があるなら、政務について考えたほうがましだ。

 この帝国の者がよりよい暮らしを営めるように。隣国との争いが続いているのも、そのせいだった。隣国の脅威を取り除かなくては、平和はあり得ないからだ。そして、平和であってこそ、人は幸せになれるものなのだ。

 それ故、アンドレアスはネスケルが提案したようなことに興味はなかった。

 ネスケルはアンドレアスが即位してからずっとよき相談相手であった。一見するとただの小柄な初老の男だが、政治に関しては一流の嗅覚を持っている。

 アンドレアスはネスケルを振り返った。

「やはり私には受け入れられない。それだけだ」
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