皇帝陛下の花嫁公募
 好きでたまらないのに別れを告げなくてはならない。それだけでもつらいのに、急に彼から口説かれるなんて困ってしまう。

 いや、急にというわけではないのかもしれない。最初、彼がここに来たときから、それに近いことは言われていたはずだ。手にもキスをされた。唇にキスをしたら止まらなくなるから、と。

 リゼットはそれをなんどもないことのように流してしまった。彼と会いたい一心で。

 本当はもっと早くにここに来ないように言うべきだったのに、言わなかったのは自分が悪い。

 だって、彼のことがいくら好きになっても、彼との将来は絶対ないのだから。

「リゼット……愛してる。君のことが愛しくてたまらない」

「あ……アロイス……」

 彼はリゼットの手を自分のほうへと引き寄せた。リゼットは彼のほうに倒れ込みそうになる。

 リゼットはその瞳の奥にある熱いものを感じて、目を瞠る。

 男性に愛していると言われたのは、初めてのことだ。リゼットの胸に喜びの気持ちが込み上げてくる。

「わたしも……」

 そう言いかけて、はっとする。

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