皇帝陛下の花嫁公募
 玉座に腰かけて、こちらを冷たい眼差しで見ているのは、紺色の軍服に身を包んだアロイスの姿だった。

 リゼットは驚きのあまり声を出せなかった。一体どういうことなのか、理解できなかったからだ。

 だが、すぐに気がつく。リゼットが少年の姿で外に出ていたように、皇帝も町人の姿で出歩いていたのだ。

 嘘……。

 リゼットは呆然とする。

 からくりが判っても、彼のしたことを思い返すと、その理由が判らない。一体どういうつもりだったのだろう。彼はリゼットが皇帝の花嫁試験を受けにきたことは知っていたのだ。そして、毎夜、試験のことを聞いていた。

 そして、昨夜……。

 最終候補に選ばれたと聞いた彼は、仮の姿で求婚してきた。

 あれはなんだったの? 彼は自分が弄ばれていたと言っていたけど、弄ばれていたのはわたしのほうじゃないの?
 だって、彼は自分が何者なのか隠していたんだもの。

 とはいえ、リゼットも正直でない部分もあった。アマーナリアの王女だとは言わなかった。どうして皇帝と結婚しなければならないと思っていたのかも。

 でも、彼はリゼットが王女だと知っていたみたいだ。

 ひょっとして……彼はめぼしい花嫁候補達とアロイスとして接触していたのだろうか。そして、その全員を試していたのかもしれない。

 もしかして、この五人の中にも、わたしみたいにアロイスの姿を見て、驚いている人がいるのかもしれないわ!
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