皇帝陛下の花嫁公募
 リゼットの妄想は広がる。

 昨夜のキスも……。

 わたし以外の人とも平気でしていたのかも。

 今まで騙されて、実在しない人物に恋をしていたのかと思うと、腹が立って仕方なかった。昨夜、あれほど泣いたのは、なんだったのだろう。

 許せない! わたしの恋心と涙を返して!

 リゼットは思わずアロイス……いや、アンドレアスを睨みつけた。

 彼は一瞬怯んだようだったが、すぐに睨み返してくる。そして、ゆっくりと玉座を下りて、こちらに近づいてきた。

「たくさんの試験を経て選ばれた五人の美しい淑女達。ご苦労だった。さて……これから花嫁を選ばなくてはならないが……」

 彼は端から順に花嫁候補の顔を見ていく。そして、一番最後にリゼットの顔を見据えた。

「誰を選ぶのかは後回しにして、まずは全員と踊ることにしよう」

 彼がそう言うと、どこからともなく音楽が聞こえてきた。どこか見えない位置に楽団がいたらしい。

 アンドレアスは真ん中に立つ一人の娘の手を取り、ワルツの音楽に合わせて踊り始めた。他の花嫁候補はその邪魔にならないように、女官に誘導されて、隅のほうに退く。

 アンドレアスは優雅に踊り、その腕に抱かれた娘は喜びに頬を上気させている。

 なんだか気に食わない……。

 嫉妬だって判っている。でも、嫉妬する資格もないのだ。

 だって、わたしは彼の恋人ではなかったんだもの。
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