皇帝陛下の花嫁公募
 最後に、リゼットの番がやってきた。

 リゼットは彼の腕に抱かれて踊り始めた。彼がアロイスだった頃、こんなふうに踊れたら、どんなに嬉しかっただろうと思う。

 リゼットはぽつんと呟く。

「嘘つき」

 彼は眉をひそめた。

「……君だって王女だと隠していた」

「知っていたくせに」

「知っていたさ。市場に会う前にここで君を見ていたから」

 どういうことだろう。今日まで皇帝としては姿を現さなかった。ということは、衛兵か何かに変装していたに違いない。

「ひょっとして、わたし達が試験を受けているところをずっと見ていたの?」

「察しがいいな。ただし、ずっとではないな。私も忙しい身だから」

 リゼットは思わずツンとして言った。

「忙しいのに、わざわざ毎日祖父の家までお越しいただいて光栄ですわ。わたしだけでなく、他の方のお部屋も訪問されたのかしら。アロイスとして」

 彼ははっとして、リゼットを睨みつけてきた。

「誓って言う。君の部屋にしか行ってない」

「でも、あなたは嘘つきだから」

「君に告白したことは嘘じゃない」

「偽りの身で愛を告白して、求婚した。つまり、嘘をつきながら、わたしを試したんだわ!」

「君こそ……『アロイス』に気を持たせた。本当は金目当てで皇帝と結婚するつもりだったくせに」
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