皇帝陛下の花嫁公募
　突然、リゼットはあることに気がついた。

「あ、もしかして、わたしがぶつかった衛兵ってあなたじゃなかった？」

「そうだ」

　彼は嬉しそうに笑った。

「君は私を気遣ってくれた。嬉しかった。身分の高い娘は衛兵にあんなふうに笑いかけてくることは普通ないから」

「わたしは変装して農作業の手伝いをしていたのよ。衛兵だからって関係ないわ」

「ああ……市場で、あんな格好の君を見たときには驚いたな。目を疑った」

「あれは偶然だったの？」

「もちろん。でも、すぐ気がついた。緑の瞳が見えたから。君は護衛を見つけたら行ってしまう。もっと一緒にいたかったから、気遣うふりをして露店の裏に連れていって……」

　だから、彼はリゼットの腕を掴んで離してくれなかったのだ。

「林檎を買ってくれて嬉しかったわ！」

　アンドレアスは優しく微笑んだ。

「そんな君を金目当て扱いしてしまってすまない」

「あなたが誤解するのも無理はなかったわ。わたしの言い方がよくなかったから。確かに、わたしはあなたの気持ちを弄んでいるような気がして、罪悪感があったの。とにかくお金持ちと結婚するのが、わたしの義務だったから」
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表紙・目次

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