皇帝陛下の花嫁公募
 料理長自らリゼットの食べ物をつくり、ナディアがそれを運んでいた。毒殺されるのではないかと考えたのは、虫の知らせのようなものだったのか。もちろん側近はリゼットに忠誠心を抱く者ばかりだったし、彼女を決して一人にはしなかった。

 あの慰労会は唯一訪れた機会だったかもしれない。

「ゲオルグはスパイと通じていたわけではないだろう。あんな間抜けと誰が手を組むものか。そんなことをしたら、うっかり自分の正体をばらされかねない。だからこそ、公爵夫人からゲオルグに内密の話が伝わる前に始末しようとした……」

「ですが、ゲオルグ様がもし殺されれば、公爵夫人はスパイの仕業だと思うのではありませんか?」

「皇帝がゲオルグを邪魔に思って始末したのだと嘘を吹き込むつもりだったのではないか。それを聞いた公爵夫人は憎しみを持ち、復讐心で国の重要機密を洩らすことも考えられる。もしくは捨て身で皇帝を殺す」

 ネスケルは溜息をついて、頭を何度か振った。想像もしたくないといったところだろう。

 アンドレアスはネスケルに、リゼット達が公爵夫人とゲオルグを警戒していたことを話した。
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