皇帝陛下の花嫁公募

 ナディアが降りるのを手伝っていると、後ろの馬車からもリディアの護衛や侍女をしていた面々が降りてくる。

「ここで作戦を立て直すということか?」

 テオは楽しそうに尋ねてきた。

「もちろんよ。今更アマーナリアにすごすごと帰れないわ!」

 祖父は突然押しかけてきたリゼットに驚いたが、毒殺されそうになったのを聞いて、やはりさっさとこちらから毒殺しておくべきだったと言われた。

 犯人が公爵夫人と決まったわけでもないのに。

 ともあれ、リゼットは前の部屋に泊まることになった。

 以前、ここで『アロイス』と会っていたことを思い出す。バルコニーを見ると、特にあの頃の自分の恋心が甦ってくる。

 アンドレアスがわたしよりあの公爵夫人やゲオルグを優先するって……。

 やっぱりおかしい!

 最初は彼に突き放されて悲しかった。けれども、彼は必要とあれば演技をする人だ。ただの町人の真似だって上手かったし、彼がとても冷たい眼差しをしていたのを見たことがある。

 そう。目の前で楽しそうに他の娘達と踊ってみせたり……。

 でも、どれも本当の気持ちじゃなかった。
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