皇帝陛下の花嫁公募
「俺が公爵夫人の情報を得ようと嗅ぎ回っていたとき、たまたま見つけた。この物置のような部屋の隅に、小さな隠し扉を見つけた。狭い通路があって……どこに通じていたと思う?」

 リゼットの部屋にも隠し通路がついていた。アマーナリアは平和の国だが、城が作られたときには何かあったときに逃げられるようにと隠し通路がつけられていた。リゼットはそれを通って、少年の格好で出かけていたのだ。

「それは……皇帝の部屋?」

 彼もアロイスの格好で隠し通路を通っていたかもしれない。そう思うと、不思議な縁を感じてくる。

「そうだ。でも、それだけじゃない。枝分かれして、皇妃の部屋に通じていた」

「そうなの!」

 いや、それはあり得ることだ。ただ、命に狙われていると思っていたときに、隠し通路があると知っていたら、少し落ち着かなかったかもしれない。

「公爵夫人が隠し通路のことを知っていたかどうは判らないが、心配だった。だけど、リゼット様を怖がらせたくなかったから、その通路の途中……皇妃の部屋のすぐ裏のあたりで音が鳴る仕掛けをしておいたんだ。音がすれば、すぐに駆けつけられるから」

「さすがテオね! 頭がいい!」

 ナディアが褒め称えると、テオは少しだけ照れた表情になった。が、すぐに真面目な顔に戻る。

「宮殿を去る前に、その仕掛けは取り外している。つまり、今はそこを通っても音は鳴らず、皇妃の部屋に容易には入れるというわけだ」

 リゼットは急に明るい気分になってきた。

「じゃあ、門の中に入ってしまえば、皇妃の部屋に潜むことも可能というわけね!」
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