皇帝陛下の花嫁公募
「わたし達もスパイの存在を推理したんだけど、やっぱり公爵夫人と関わりがあるかどうかが判らなかったの。だって、公爵夫人はとても怪しかったから。それで、スパイがワインをゲオルグに勧めたのは何故なの?」
「公爵夫人にはまだ甘いところがあったんだと思う。彼女にとって、私は憎くても甥だし、政治や何やら面倒くさいところをちゃんとやってくれる便利な存在だ。だから、本気で排除したくはなかった」
「排除するのは妃だけでいいものね。ゲオルグ自身はスパイと関わってなかったの?」
「あんな間抜けと組むスパイがいるものか。まあ、スパイは公爵夫人にもっと非情になってもらって、上手くこの国を内側から破壊しようと思っていたんだろう。ゲオルグを殺害して、それは皇帝の企みだと耳打ちすればいい。
実際は誰も死なずに済んだが、ゲオルグが疑われ、軟禁された。取り調べの辱めも受けた。それがすべて皇帝の企みだと言われたら、公爵夫人は憎しみを募らせ、皇帝を排除しようと思うだろう」
「つまり、相手の思うツボというわけね」
「私は公爵夫人が宮殿の中を取り仕切っていることを当たり前のように思っていた。というより、そんな雑事まで手が回らない。彼女がここで女帝のように振る舞うことを許してしまった。結果、彼女は大変な権力を手に入れていた。恐ろしいことだよ。たかが雑事。されど雑事」
「怖いわね……。わたし達が何も気づかなかったら、彼女の思うとおりになっていたのかしら」
アンドレアスはクスッと笑った。