皇帝陛下の花嫁公募
 彼女はあかぬけていなかった。ドレスも流行のものとは言いがたい。けれども、アンドレアスにはそれから新鮮に思えた。

 でも、まさかアマーナリアの王女だったとは……。

 アンドレアスは、もちろんアマーナリアの場所くらい知っていた。自分の帝国の領土なのだ。知らないはずがない。

 辺境の不毛な土地だ。かなり貧しい王国だという話で、帝国に富をもたらすわけではなく、戦略的にも重要な土地だとは思えないため、アンドレアスは今まであまり関心を持ったことがなかった。

 あんな辺境の土地に、あんなに美しくも毅然とした姫が存在していたとは思いもしなかった。

 その時点で、アンドレアスはかなり彼女に惹かれていた。

 だが、性格はまだ判らない。わざと彼女にぶつかってみて反応を見てみた。他の娘達は力なく床に倒れたり、転んだ後に、ショックを受けて呆然とするか、こちらを罵ってきた。

 けれども、彼女は違っていた。

 まず転んだりもしなかった。

『ごめんなさい。痛かった?』

 まさか、そんなふうに気遣かわれるとは思わず、我ながら言葉も出ずにただ頷いていた。

『よかった。でも、これからは歩くときは前を見てね』

 優しく注意をしてくれた。

 そして……。

 にっこりと笑いかけてくれたのだ!

 皇帝でもない、ただの衛兵に。
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