皇帝陛下の花嫁公募
 少し当たっただけだ。こんな体格のいい人が自分のような小柄な人間ぶつかって、怪我なんかするわけがない。別に転んだわけでもあるまいし。

 リゼットは護衛を目で探した。が、人込みの中ではぐれたのか、どこにも見えなかった。

 嘘……!

 どうして肝心なときにいないの?

「おい、逃げるんじゃないぞ!」

 リゼットの目の動きを誤解したのか、男は更に近づいてくる。リゼットは恐怖を感じて、後ずさった。

「あ、謝ってるじゃないですか! 他に何をすれば……」

「出すもの出せばいいんだよ」

 こんな人込みの中で金を出せと迫っているのだ。リゼットは困ってしまった。

「お金は持っていなくて……」

「嘘を言うな!」

「嘘じゃありません! 連れが持っているけど、どこかに行ってしまって……」

お金を出せば許してもらえるなら、そっちのほうがいい。理不尽だとは思うが、絡まれたくなかった。
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