皇帝陛下の花嫁公募
 彼の顔はのみで削られた完璧な彫刻のように整っていて、リゼットは思わずぽかんと見つめてしまった。青い瞳がわずかに細められ、その眼光の鋭さに少し戸惑う。

「あ……あの、ありがとうございました。わた……ボ、ボクは大丈夫です」

 そのとき、後ろから来た誰かにぶつかられて、よろけてしまう。リゼットは男の腕に抱き留められていた。

 ドキンと胸が高鳴る。

 だって、男の人の腕に抱き締められるのは初めてだから。

 いや、女性として抱き締められているわけでないことはよく判っている。けれども、リゼットには男性の胸に顔を埋めるのは初めてで、慌てて離れながら謝った。

「ごめんなさいっ……」

 頭を下げて、改めて顔を上げると、彼は何故だかじっとリゼットの顔を見つめていた。

 え……。

 女だって判ってしまったかしら。

 少年のようにごまかしてみても体形は違う。抱き留められたときに、気がつかれたかもしれない。

「じゃ、じゃあ……」

 リゼットは人込みに紛れ込んで逃げようとしたが、腕を掴まれ、引き戻される。

「君はまた誰かにぶつかるかもしれないから……」

「あの、あの、どこかに連れがいるはずなんです。だから、その人を……」

「一緒に探してあげよう」

 彼はにっこりと笑う。

 威圧感のある男性だが、笑うと優しげな雰囲気になる。
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