皇帝陛下の花嫁公募
「名前は?」

「え……と、ミーゼンです」

「ほう。……ミーゼンか」

 彼はリゼットの顔を覗き込み、また微笑んだ。

「あ、あなたのお名前は?」

「俺は……アロイス」

「アロイス……」

 リゼットはその名前をしっかりと胸に刻みつける。

 自分の胸をこんなにドキドキさせた初めての男性の名だ。これから自分が誰の花嫁になるのかまだ判らないが、しっかりと覚えておきたい。

「市場に何を買いにきたんだ?」

「何って……見学に来ただけなんです。帝都に来たのは初めてで、市場ってどんなところかなって」

「そうか。……あそこにおいしそうな林檎があるぞ。買ってやろう」

「えっ、いいえ、そんな……」

「子供が遠慮なんかするな」

 そということは、彼はリゼットを少年だと信じているのだろう。だとしたら、女だとは気づかれていないらしい。
 リゼットはほっとして、彼に林檎を買ってもらった。

「ありがとうございます」

 この格好で農作業に出て、いろんな食べ物をもらう機会があったが、買ってもらったのは初めてだ。

 しかも、こんな格好いい男の人に!
< 54 / 266 >

この作品をシェア

pagetop