皇帝陛下の花嫁公募
 高価なものをもらうよりも、ずっと嬉しい。林檎を見つめて微笑んでいると、彼も林檎を手にして、にっこり笑う。

「裏手のほうに座れる場所がある。一緒に食べよう」

 アロイスは強引にリゼットを誘って、露店の裏側へと回っていく。リゼットは護衛が自分を必死で探していることは判っていたが、彼とまだ一緒にいたくて、そこに置いてある木箱の上に座った。

 彼は林檎を服で拭いて、がぶりとかぶりついた。おいしそうな香りが漂ってきて、食欲が刺激される。

 リゼットも彼の真似をして服で拭くと、林檎をかじってみた。

「おいしい……!」

「なあ、そうだろう?」

 二人は顔を見合わせて笑った。

 なんて楽しいのだろう。少なくとも、上品な娘達の間で無視されながらぽつんと座っているより、ずっといい。

「こんなおいしい林檎は初めて!」

「大げさだな」

「だって、本当のことだから。ボクの住んでるところでは、こんなおいしい林檎はできないんだ」

 何しろ湿地帯ばかりだ。畑で収穫するのは主食だけで精一杯なのだ。
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