皇帝陛下の花嫁公募
 いや、それを認めるわけにはいかない。リゼットはどんなに恋をしていても、王女の義務をほったらかしにはできなかった。

 だいたい、彼も自分が王女だと知ったら、運命だなんて口にしなかったのではないだろうか。

 でも、今更、王女だと名乗りにくい。

 いや、名乗ってしまったら、彼とはもう二度と会えないかもしれない。

 彼とまた会いたい。一緒に過ごしたい。

 そんな想いが胸をよぎる。

 それがよくないことだと判っていながら。

 彼に告げるのよ。自分が王女だと。王女の義務も説明して、裕福な人としか一緒になれないんだって言うの。

 でも……。

 彼は何もリゼットに結婚の申し込みをしているわけではないのだ。

 そうよ。会ったばかりなんだから。わたしが彼のことを何も知らないのと同じで、彼もわたしのことなんてあまり知らない。そんな相手に結婚なんて申し込まないわ。

 それなら、まだ少しだけ彼と一緒にいてもいいだろうか。

 深みにはまると、どちらも傷つく。本当は彼ともう会わないほうがいいに決まっている。それでも、リゼットは生まれて初めての恋をすぐに手放せなかった。

 もう少し……。

 もう少しだけ。ねえ、いいでしょう?

 リゼットの気持ちは揺らいでいた。理性ではダメだと判っているのに、どうしても感情が言うことを聞かない。

「わたし……運命だって思いたいけど、でも……」

「判った。君には迷いがある。そういうことだな」
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