皇帝陛下の花嫁公募
 確かに彼にできることなら、他の誰かができないとも限らない。二階だからといって、まったく安心できない。

「約束だ……」

 アロイスはリゼットの手を取り、指先に小さな音を立ててキスをした。

 ドキッとしたが、手を引っ込めたりしない。ただ、彼の唇の感触がまだ指先に残っているような気がして、全身が熱くなってくる。

「その唇にキスをしたい」

「えっ」

 リゼットは唇を見つめられて、顔を赤らめる。

「だが、しない。キスしたら、もう自分を抑えられなくなるから」

 彼はそう言いながら、ゆっくりと名残惜しそうに手を離した。

「アロイス……」

「心配するな。君を襲ったりしない。俺はただ君を大切にしたいだけだ」

 リゼットは小さく頷いた。

 それは信用できる。何故かと訊かれれば説明できないが、今までの彼の言動からして、自分が危険な目に遭うとは思えなかった。

 彼は立ち上がると、窓のほうへと向かっていく。リゼットもその後を追った。
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