皇帝陛下の花嫁公募
 連れていかれたのは大広間だった。

 向こうには階段が数段あり、高くなった場所に玉座が据えられていた。

 今日は皇帝の顔が見られるのかしら……。

 そこに集まり、立ったままおしゃべりをしている女性達も同じようなことを思っているらしく、皇帝についてあれこれ話して、盛り上がっていた。

 リゼットには誰も話しかけてこないので、黙ってその噂話に耳を傾けていた。

 どうやら皇帝の顔を知らない人が多いようだが、知っている人はなんだかもったいぶっている。

「それで、どんなお姿なの?」

「舞踏会でも軍服姿なのよ。今日、顔をお見せになるとしても、きっと軍服をお召しになっているわ」

「軍服? でも、皇帝陛下なのに……」

「皇帝陛下でも、アンドレアス様は別格よ。軍隊を実際に指揮なさるの。お飾りではなくて、実際によ」

 リゼットは、皇帝がアンドレアスという名前だということを初めて知った。

 軍隊を自分で指揮して、いつも軍服姿でいる皇帝……。

 リゼットには想像もつかない。まだ噂話は続いていた。

「それで、肝心のお顔はどうなの?」

「それはもう……素敵よ。でも、少し怖い感じがするわ。なんといっても、いつも軍服姿だから。上品というよりは粗野な印象を受けるかも」

「粗野……。で、でも、皇帝陛下ですものね! 血筋は確かだわ!」
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