MちゃんとS上司の恋模様




 この百貨店は、駅前にあるシティホテルと連絡通路で直結しているのだ。

 藍沢さんが指差したのはホテルの方。どうしたのか。
 小首を傾げると、藍沢さんは目尻に皺を寄せた。

「今日は本当にありがとう。ご飯食べていこうよ。お礼におごらせて?」
「そんな! これぐらいでお礼なんていりませんよ」

 とんでもない、と手を顔の前で振る私に、藍沢さんはこちらがクラクラしてしまいそうなほど眩しい笑顔を振りまいた。

「何を言っているの? 僕はとっても助かったんだ。お礼ぐらいさせて?」
「で、でも……」
「僕の気が治まらないよ。僕のことを思うなら……ね?」
「っ!」

 そんなふうに縋るように見つめないでほしい。居たたまれなくなってしまう。
 天使、藍沢さんに見つめられ、私は早々に白旗を振った。

「わかりました。では、ありがたくお受けしますね」
「よかった。ありがとう。麦倉さんとの食事ずっと楽しみにしていたんだ。だから嬉しいよ」
「!」

 天使さまは、臆面もなくそんな恥ずかしいセリフがスラスラと口から出てしまうんですね。
 さすがは、天使。スゴイ。

 真っ赤になって固まっている私の背中に手を置き、藍沢さんはリードしてくれた。


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