MちゃんとS上司の恋模様




 自分で何を言っているのかもよくわからない。もちろん、藍沢さんが言っていた言葉の意味もわからない。
 ふにゃふにゃとして力が入らず、身体も頭も使い物にならない。

 アルコール、恐るべし。これは結構……ヤバイかも。

 藍沢さんが何か言っていたが、何を言ったのか。返事しなくちゃいけないんだろうけど、内容が全く頭に入ってこない。

 そんなときだった。私のスマホに着信を知らせるメロディーが鳴った。
 力が入らない身体だったが、なんとか持っていたカバンを引き寄せてスマホを取り出した。

 相手が誰か確認もせず、通話ボタンを押す。

「どっちらさまでしゅかぁあ?」
『お前、酔っ払っていないか?』

 この不機嫌そうな声。それを聞いて、何故か背筋が寒くなった。これは条件反射というヤツなのだろうか。
 日々S上司の怒号を聞いている我が身を憂い、私は遠い目になる。

 いつもならこんなふうに話したりはしない。だが、アルコールの力、恐るべしだ。
 私は「うへへ」と怪しげな笑い声を出した。

「あ、ドS主任。お疲れさまでーす。んふ? 飲んでませんよ〜。え? 今ですかぁ〜藍沢さんと一緒でぇ」

 なぜか電話先の須賀主任からは緊迫した様子が伝わってくる。一体どうしたのだろうか。

 だが、今の私は完全なる酔っ払いだ。すぐにその違和感さえも感じなくなってしまう。
 すると、スマホを藍沢さんに捕られてしまった。

「藍沢しゃん?」

 舌足らずな私を見てニッコリとほほ笑んだあと、藍沢さんは須賀主任と話し始めた。
 だが、眠さマックスな私には彼らの会話は耳に入ってこない。

 だから知らなかったのだ。藍沢さんが須賀主任に言った言葉の意味を……

「ふふ、須賀。これから大人の時間なんだから邪魔すんなよ?」

 藍沢さんはそれだけ言うと、私のスマホをベッドに投げ捨てたのだった。



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