不器用な彼女

「エンジン掛けとけよ、アホ」

ぐぅっ…相変わらず口は悪い。

「アホは余計です…」


凍えるような寒さの中、車の脇で待っていた詩織。15分後に駐車場に来た社長は詩織をアホ扱いする。

明日仕事で使うであろう書類と図面、それとコートを抱えて、さっきまでノーネクタイでボサボサ頭だったのに、ネクタイを締めてジャケットまで着て、髪だって綺麗に整えてる。

ほら、ちゃんとしてたら良い男。人をこき使わず、もうちょっと優しかったらモテると思うのに。


「何の為に車の鍵を渡したんだよ、バカ」

今度はバカ扱い。

「鍵は開けられたんですが…エンジンの掛け方が分からなくて…」


社長の車はボタンでエンジンが掛かるタイプ。田舎に帰ってたまーに運転する程度のペーパードライバーの詩織には難しい。鍵も鍵穴も無い車は触った事もない。

「せめて中で待ってろよ、体冷えてる」

社長は鬼のくせにそっと詩織の背中に手を添えて、助手席に座るよう促した。



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