不器用な彼女
下腹部に残る鈍い痛み。
鏡に映る胸元に付けられた紅い跡。

社長がイク時の何とも言えない表情。掠れた声。厚い胸板。逞しい腕。甘いキス。舌の動き。這うような指先。

思い出すとまた自分の体が熱くなるのを感じた。



顔を洗い簡単にメイクを済ませると詩織は社長の家を後にする。

「ポストに入れといてくれて良いから」と預かった自宅の鍵を本当にポストに入れるのは何だか不安で、ついでに仕事が忙しいのも気になって、やっぱり仕事に向かう事にする。

電車の中から“今から出勤します”と社長にラインをした。

頭がボーッとするのは寝不足のせい。
体がだるいのは甘い行為のせい。

それすら心地良いと感じながら電車に揺られた。




事務所のドアを開けると「あれ?詩織チャン、熱はもう良いの?」なんて一美が驚いた顔をしている。
社長は電話中で視線だけを詩織に送る。

「えぇ、、もうスッカリ。遅刻してスミマセン」

なんて話を合わせる。きっと社長が休む理由を適当に言ってくれたんだな〜と思ったと同時に感じる一美の視線で会社に来たのは間違いだったと気付く。

(!!!私のバカ!)

「ははーん、なるほどね。昨日と同じ服って訳ね」

時すでに遅し。
電話中の社長の背中から“お前はバカか?”とテレパシーが伝わってくる気がする。


一美のひやかすような視線にその日の午前中は社長も詩織も生きた心地がしなかった。












< 116 / 203 >

この作品をシェア

pagetop