不器用な彼女
平日の首都高は混雑していた。事故でもあったらしい。

朝から暑いのに、更に気温が上がったのか、渋滞の先には蜃気楼まで見える。
でも、車の中は快適で、今日の結婚式の為に連日残業だった疲れもあって詩織はスーッと眠りに落ちた。



「おい、起きろ」

「あ、おはようございます。…私、寝てました?」

「あぁ、思いっきりイビキかいてた」

外に出るとイラつくような暑さと湿気、うるさいくらいの蝉の声がする。

社長はスーツのジャケットに袖を通した。
黒スーツにサングラス。それがとっても似合っちゃってる。

「中に行こう。暑すぎ」

「はい」

駐車場から受付のある建物まで緑と花に囲まれた石畳を歩く。
詩織は慣れないピンヒールに苦戦する。
踵が石畳の間に刺さったり、凹凸にふらついたり。

「ほれ」

差し出された社長の腕に詩織は腕を絡める。社長は暑がりだから、本当はくっついて欲しくないはずなのに。

「あ…」

そこで初めてピンヒールのせいで社長の背を越している事に気付く。
『高い靴は履くんじゃねーよ!俺が小さく見えるだろ?!』なんて昔の彼に言われた事を思い出して少し背中を丸める。
男の人は『小さい』と言うワードに敏感だ。多分。

「婆さんみたいになってる。背筋伸ばせ」

「婆さん?!」

25の詩織に対して婆さんとは失礼だ。

「身長は気にすんな。良い女連れてる方が俺が更に良い男に見えるんだから」

「…何ですか、それ」

「“あの男、背は低いのに良い女連れてる〜!きっと背なんか低くたって気にならないような魅力があるのね〜”って思われんだよ」


褒められて嬉しい。くすぐったい。
詩織は背筋をシャンと伸ばした。



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