不器用な彼女
詩織はイライラしている。
新人茉由が入社してから一ヶ月、会社の居心地がよろしくない。よろしくないと言うか気に入らない。

「社長〜、ここ、分からないんですけどぉ」

1日に何度も甘えた声が聞こえる。

近付いてるのは茉由だし、社長は教える立場だから仕方ないと思いながらも、二人の距離の近さ、社長の優しい態度が気に入らない。

「同じ事何度も聞くんじゃねーよ!」「くだらねぇミスしてんじゃねーよ!」「少しは考えろ!」なんてスパルタ教育を受けてきた詩織にとっては尚更面白くない。

社長だって何となく嬉しそうに見える。



いつものように二人残って残業している最中に「坂上さんはどうだ?」なんて社長が聞いてくる。普段事務所に居たり居なかったりするから気になるんでしょうけど。


「どうって…仕事覚えるの早いと思うし…頑張っているんじゃないでしょうか?」

追加で「距離が近くないですか?」「社長も彼女に優しすぎるんじゃないですか?」とも言ってみたいけど、それはグッと呑み込む。

もし一美が居たならきっと「社長、あの子とくっつきすぎですよ?」とか言ってくれたに違いない。

詩織は自分のみっともないヤキモチを一瞬でも見せてはならないと、グッと奥歯を噛み締めた。
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