不器用な彼女
折角の日曜日が勿体無いと詩織は途中下車する。

買い物を楽しむにはまだ早く、ハロウィン一色のウインドーを覗くしかできない。

(9時10分か…)

腕時計を確認し、少し時間潰そうとカフェを探す。

ブッブーーー!

車のクラクションが聞こえる。
まさか自分を呼んでる訳はないだろうと振り返りもせず歩いていると、今度は「櫻井さ〜ん!」と大きな元気な声が聞こえて振り向いた。

「青木さん! おはようございます」

仕事用の軽ワンボックスの助手席から身を乗り出し手を振っている。車は路肩に停車し、詩織は車道に近付き挨拶をする。

「何?今日は仕事?…まさかね?」

「スミマセン、私は休みです…」

「俺たちは今から現場〜!ここからすぐなんだけど」

色見本を入れなかったばっかりに、塗料が間に合わず現場も押してるのは分かっていたけど。。。


「日曜日なのに…お仕事になってしまって申し訳ありませんでした」

「いや、櫻井さんのせいじゃないよ。結局は社長の責任だし。今日は社長も来るから…こき使ってやろうかと…」

青木は意地悪そうに、でも、嬉しそうに笑っている。

「あ、そだ、コイツ、うちの新人。新人って言ってももう半年以上ウチにいるけど。櫻井さん、初めてだもんね?」

そう言われて運転席に目を配ると若そうなお兄さんの影。深々と頭を下げ挨拶をした。

「お世話になっております。turquoise Design Officeの櫻井と申します」

「詩織か?詩織だろ?」

予想もしない返事に驚き、顔を上げる。

運転していたのは…会いたくない男だった。


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