不器用な彼女
少し大人っぽくなって、ワイルドにヒゲなんて生やして、頭にはタオルを巻いているけど…詩織に笑いかける顔には見覚えがある。

見覚えがあると言うか、一気に記憶が蘇った。

「佐原くん…」

「何だ、お前ら知り合い?」

「知り合いも何も…俺の元カノ!」

佐原譲(さはらゆずる)。大学時代に付き合った詩織の初めての彼だ。

「へー、turquoiseに居るんだ」

「…はい」



初めてのキス、初めての夜、全てこの男に捧げた。「半年間、留学してくる」「帰ったら連絡する」なんて言われて、そのまま音信不通になった。

恋い焦がれていた訳ではないし、待ち続けた訳でもない。でも何となく嫌な思い出だった。

佐原は「詩織、またね」なんて車を発進させる。“また”なんてのはお断りしたいくらいだ。

でも、仕事で関わる必要がある以上無視は出来ないんだけど。。。

詩織は軽ワンボックスを見送ると丁度道の向こうにメジャーなカフェを見つけた。

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