不器用な彼女
《椎名side》

(何で誰も電話に出ない?)

事務所に掛けた電話は何コールかの後、留守番電話に繋がる。

昨夜は詩織と佐原の姿を見て怒りがこみ上げて…そのままカツミの店でヤケ酒を飲んだ。

「恭介が悪い」
「詩織チャンに謝れ!」
「嫉妬、嫉妬〜!見苦し〜い!」

カツミに散々責められ、女心とやらの説明も受け、「もうアタシは帰るのよ!」と追い出される頃には夜中の3時を過ぎていた。

帰り際、酔っていたのか手元から落としてしまった自宅の鍵を拾おうとして身を屈めた時、ワイシャツの胸ポケットから携帯電話が地面に落ちた。

そして、一回跳ね上がったと思ったら…神楽の小径の脇にある小さな水路に見事にハマる。


「あら、派手に落としたわね」

店の戸締りをして後から来たカツミは「バチが当たったのよ」なんて言ってる。

「ふざけんなよ!」

「アタシのせいじゃないわよ?

この小川『雰囲気あるだろ?』って言って造らせたのは恭介でしょ?アタシは小川なんて要らないって言ったのに」


ぐうの音も出ない。仰る通りだ。
別に携帯を陥れる為に作った小川ではなかったけど、“墓穴を掘る”“自らの首を絞める”ということわざが頭に浮かぶ。


「意外と手入れが面倒なのよ」とブツブツ言われ、カツミは先に小径を抜けると門を抜けて帰って行く。


蜘蛛の巣のようになった画面。電源はもう入らない。

仕方がないからそのまま帰って寝た。


で、今、スッカリ寝過ごして焦ってるところだ。

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