不器用な彼女
「おめでたですね、妊娠してます」
お爺ちゃんの言葉に耳を疑う。
「最終の生理から考えると…9〜10週ってとこでしょうね。3ヶ月に入っていると思います」
「…はい」
「嘔吐と胃のムカムカは悪阻だと思います。
…早目に産婦人科を受診して下さいね」
病院からどう帰ってきたのか覚えていない。気持ち悪さでソファーから動けずにいる。
頭の中でお爺ちゃんドクターから言われた言葉が何度も再生されてる。
病院で渡された妊娠判定の白いプラスチック。その小窓にはハッキリと➕のマークが記されていた。
今日は社長とずっと連絡が取れていない事を思い出す。
奥さんに会い、派手に転び、妊娠が発覚。
色々な事が一気にありすぎて、当然気持ちの整理なんか出来ないし、社長にも会いたくないし、会ってはいけないと思うし…。
携帯をカバンから取り出すと携帯には社長からのメッセージが残っていた。
『俺だ。携帯壊れた。今会社にいる。…昨日はゴメン。携帯繋がったらまた連絡する』
どんな顔して留守電を残したんだろう。
信じていた男が、大好きな男が、大嘘つきだった。
社長に裏切られていた事も、妊娠してる事も実感がない。
詩織はお風呂を済ませると夕食も取らずにベットに潜り込む。
『体調不良の為、明日も休みます』
それだけラインを送ると携帯の電源を落とした。