不器用な彼女
「小銭しか持ってないのに乗っちまった」なんて社長は頭を掻いている。詩織が居なかったら逮捕ものだ。


社長を部屋に通す。暖かい日本茶を淹れると向かい合うようにテーブルを挟んで座った。

「何で…妊娠してる事を直ぐに言ってくれなかったんだよ」

「…何で知ってるんですか?」

「妊娠検査薬」

「え?」

妊娠検査薬は大事にジュエリーボックスに入れてある筈だ。

そこで初めて社長が不動産屋と警察の立会いの元、部屋に入った事を知る。

「お前が何も言わないから…俺の子じゃないのかと思ったし、入院なんて聞いて…黙って堕したのかと…でも、堕してないんだろ?腹ん中で育ってんだろ?」

社長がそっと詩織の下腹部に手を当てる。少しお腹が出てきたのが分かる程度の膨らみだ。

「赤ちゃんは元気です…社長の子です」

「俺が嫌だったのか?」

「そんな訳ないじゃないですか!…だから、一人でも産むと決めたんです」

「何で一人?」

詩織は姿勢を正すと真っ直ぐに社長を見つめる。

「奥さんに…申し訳ないです。だから…認知もして貰わなくて結構です。養育費も…」
「待て!」

社長は興奮するといつも人の話を最後まで聞いてくれない。


「俺は、結婚なんてしたことねーよ?」


ナニイッテルノ?コノヒトハ???


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