不器用な彼女
「荷解き、休み休みやれよ?」

依頼していた引越し業者に引越し先の変更を申し入れた時は少し嫌な顔をされたけど、昨日無事に詩織の荷物が社長の家に届いた。

「ん、無理はしないようにする」

いつの間にか妊娠7ヶ月に入り詩織のお腹は丸く膨らんでいる。お腹の中の赤ちゃんは今日も元気に動いている。

「仕事行ってくる。夕方迎えに来るから」

「行ってらっしゃい」

社長は“行ってきます”と詩織の頬と丸いお腹にキスをした。
最近の日課だけど何だかまだくすぐったい。




今日は夕方から食事会だ。

社長と詩織の結婚を祝おうと、親しい取引先の人や職人さん、仕事関係の人ばかりではなく何故か尚美もカツミまでも参加しての会費制のパーティーだ。

部屋の掃除をし、クローゼットに仕舞う服を段ボールから引っ張り出したところで呼鈴が鳴った。



「調子はどう?」

大きな箱を抱えた尚美だ。

「どうって…昨日会ったばかりじゃないの」

「詩織に聞いてない、お腹のベビチャンに聞いたんでちゅよ〜」

なんて詩織のお腹を撫で回す。

「くすぐったいよ〜」

「あ、蹴った〜❤︎」

すっかり赤ちゃんに夢中で隙あらばお腹を触りお腹に話しかけている。オバ馬鹿って言うのかな?


「これ、クローゼットに掛ければ良いの?」

尚美はテキパキと作業を始める。昨日だって引越し業者の指揮者として見事な働きをしてくれた。

「箱、開けてみ?」

「何これ?」

「今日の為に用意したの。前祝いってやつ?」


箱の中身は…白いワンピース…いや、ドレスだ。

オーガンジーをふんだんに使った、お腹をフンワリと隠す膝下丈のドレスだ。親切にもドレスに良く合うバレエシューズまで用意されていた。











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