不器用な彼女
《椎名side》

「社長、気持ち悪いです」

「あ?何だその失礼な言い方」

「“心ここに在らず”って感じ。にやけちゃって…気持ち悪い。ずーっとですよ?そんなダラシない顔、見てるこっちが不愉快です!」

小娘発言をしてから更に遠慮を忘れた茉由の言葉に少しだけショックを受ける。不愉快だなんて言いながらも嬉しそうにしてるから決して本心ではないはず。多分。

「悪かったな、幸せで」

「何か腹立つ!そんなダラシない顔は娘に嫌われますよ?」

詩織のお腹の赤ん坊の性別は女の子らしい。

丸く膨らんだお腹、ポコポコと動くのは触っても眺めても確認できる程だ。


朝起きたら隣に詩織が居る。
帰ったら詩織が居る。
まだ始まったばかりの同棲は(入籍はまだ!)鬼社長の目尻を簡単に下げてしまう程の威力だ。



「社長、電話ですよ」

「誰?」

「え?分かんない。何て言ったか聞こえなかった」

「またか!」

茉由のケロッとした態度に頭が痛くなる。ま、徐々に戦力になってくれたら良いけど。

「はい、お電話代わりました、椎名です」

電話の相手は待ちに待った相手からだ!

「はい、ありがとうございます。直ぐ行きます」

電話を切るとジャケットを羽織る。

「どっか行くんですか?」

「ん、今日はもう先に帰らせて貰う!もうすぐ定時だし!」

「えっ?まだ16時ですよ?!」

「戸締り宜しく!何かあったら携帯に電話して。じゃあ後で!あ、お前は定時まで働いて?入力間違えんなよ?」

ブーブーと文句が聞こえるけどそんなのは無視だ。








< 196 / 203 >

この作品をシェア

pagetop