不器用な彼女

「クソって…お下品なワードを言わないで下さいよ!」

「クソか空腹が原因で俺を無視したんだろ?」

社長は澄ました様子で紙袋からカフェオレとタルタルフィッシュのサンドイッチを出すと「食え」と差し出す。
詩織は素直に受け取った。

食べ物で詩織のやる気スイッチをONにするとは社長の作戦勝ちだ。手のひらで転がされちゃってる。


「残業…悪かった。疲れてるよな、お前も」

最近は本当に忙しい。残業もほぼ毎日。

社長が詩織の先輩、木村一美(きむらかずみ)に仕事を頼んだのが先週。しかし2日前からインフルエンザにかかり仕事を休んでいる。明日取引先に持っていくつもりの書類のため、今日中に書類を作る必要があったのだ。

「インフルエンザですから…仕方ないです」


「顔が怖いから」「仕事に厳しいから」と最初は社長が苦手だったが、たまには労いの言葉だってくれる。

「助かる。ありがとう」

鬼が、あの鬼が微笑んだ。
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