不器用なフクロウ
「無理に人を好きになる必要なんてないし、米原くんがこの人好きだなって自然と思える人と出会えるまで、今まで通り過ごしてればいいんじゃないかな」
わたしがそう言うと、米原くんは「出会えますかね、そうゆう人に」とボソッと呟いた。
「米原くんはちゃんと人の事を思いやれる心を持ってる人だから大丈夫だよ」
「菜月さんにそう言われると照れますね」
「そう?米原くんは心が綺麗すぎるのかもね。綺麗な顔に綺麗な心、、、神様って意地悪だわ~」
「菜月さんだって、綺麗じゃないですか」
「また、そんな褒めても何も出ないよ?」
わたしがそう言うと、「いや、本当のこと言っただけですから!」と笑う米原くん。
さっきの悲しげな表情はなくなり、いつもの無邪気な笑顔に戻っている米原くんを見て、わたしも笑顔になる。
すると、ケチャップの良い香りと共にナポリタンがやって来た。
「おまたせー」
シゲさん特製のシンプルなナポリタン。
「召し上がれ」
そう言って、シゲさんは手に持っていた伝票をエプロンのポケットに入れて、厨房に戻ろうとした。
それに米原くんも気付き「シゲさん、伝票!」と呼び止める。
シゲさんは振り向くと「お前が初めて彼女を連れて来た記念だ、奢るよ」と言って、悪戯に微笑んだ。
米原くんは恥ずかしそうに「だから、会社の先輩ですって」と言い、わたしの方をチラッと見た。
わたしたちは目を合わせフフッと笑い合い、ナポリタンを目の前に手を合わせてフォークを手に取った。
シゲさんのナポリタンは、しっかりめの味付けなのに後味がしつこくない、まるでシゲさんの人柄のような優しいナポリタンだった。