不器用なフクロウ
「ご馳走さまでした」
「またおいで」
シゲさんにお礼を言い、お店をあとにする。
時刻は12時40分。
これから戻れば、丁度いい時間だ。
会社に戻る途中、米原くんはコンビニに寄ると言い、わたしは先に戻ることにした。
社員が次々と戻って来る時間。
わたしは会社に辿り着くと、なかなか下りてこないエレベーターを待った。
すると、後ろから「お疲れ様です」と声がした。
振り向くと、そこにはツンとした表情の東さんが立っていた。
「あ、お疲れ様です」
「、、、朝永さん、優くんと一緒にランチ行ってたんですか?」
「え、あ、まぁ」
「いいですね。わたし、優くんとランチなんてしたことありませんでしたよ」
表情を変えずに落ち着いた声で東さんは言う。
東さんから放たれている静かな威圧感が、わたしの右半身をピリピリとさせた。
「わたし、まだ諦めてませんから。いつか振り向いてもらえるまで、優くんのこと諦めません」
「そうなんだ、、、」
「同じ部署で優くんと仲良いからって、調子に乗らないで下さいね」
「わたしは、そんな」
わたしが否定しかけた時だった。
「調子乗ってんのは、お前じゃねーの?」
その声の主は、やっと下りてきたエレベーターに乗り込もうとわたしの横を通り過ぎて行った。
そしてエレベーターに乗り込むと、「乗らねーの?」と開くボタンを押し続けてくれた。
わたしは小走りでエレベーターに乗り込んだが、東さんは乗ろうとしなかった。
仕方なく閉じるボタンを押し、エレベーターは5階を目指す。
「だから言っただろ、面倒なことになるって」
そう言ったのは、外回りから帰ってきた直人だった。
「あ、ありがとう」
「何が」
「言い返してくれたから」
「助けろって言ったのは菜月だろ?」
冷たく聞こえるけれど、本当は優しい直人。
5階に着くと、直人はふとこっちを見て、バチっと強めのデコピンをわたしのおでこにお見舞いした。
わたしは「痛っ!」と両手でおでこを押さえる。
「ボディーガードは疲れるなぁ」
そう呟きながら直人はエレベーターを降りて行った。
わたしはそのあとを追いながら「ボディーガードが何でデコピンするのよ」と独り言を溢し、でも愛のあるデコピンに心が解れていることに気がついた。