不器用なフクロウ

わたしはこの日、必死になって主任から分けてもらった業務をこなした。

お昼休憩は取らずにそのまま仕事をしようとしていたが、直人が気をきかしてコンビニでおにぎり2つと飲むヨーグルトを買って来てくれて、おにぎりを頬張りながら仕事を続けた。

午後になると、米原くんがコーヒーを新しく淹れ変えてくれて、わたしは定時まで椅子から立つことなく過ごした。

「終わったー!」

わたしが達成感でいっぱいの気持ちを声に出し、両手を高く上げて背筋を伸ばしたのは、16時52分。
今日は定時に帰れそうだ。

「お疲れ様です!」

米原くんが言った。

「朝永、ありがとう。おかげで俺も今日は定時で帰れるよ」

そう言ったのは、わたしより少し前に業務が完了していた主任。
しかし主任の場合、早く帰れるのが良かったのかどうなのか。

「今日はみんなで定時に帰ろう」

主任がそう言うと、「お疲れ様でしたー」とみんな帰る支度を始めた。

「菜月、今日もバスか?」

席を立ち、椅子をデスクにしまいながら直人が言った。
わたしも立ち上がると「うん」と返事をした。

「送るよ」
「え、別にいいよ」
「いいから、帰るぞ」

直人はそう言うと、「お疲れ様でしたー」と言って歩き出した。
わたしも「お疲れ様でした!」と言い、急いで直人のあとを追った。

部署を出てエレベーターに乗ると、中は帰宅する人たちでギューギューだ。
わたしは角の方に立っていたのだけれど、わたしをかばうように直人が立ってくれていて、わたしは押し潰されずに済んだ。

ただ、見上げれば直人の顔がすぐ側にあって、少しドキドキしている自分がいた。
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