不器用なフクロウ
わたしは、築30年と自分と同じ年の3階建てのアパートに住んでいる。
リフォームはされていて、30歳の割には綺麗な301号室。
1DKで1人のわたしには充分な広さだ。
アパートは広い道路に面していて、目の前にバス停がある。
わたしはそこのバス停から毎日バスに乗り、20分先の職場まで通っていた。
わたしの職場は、街中にある大型ショッピングモールを展開する本社の5階にあり、販売促進部という部署に配属されている。
この部署は、わたし含め5人。わたし以外、全員男性の部署だった。
「おはようございます」
ガラスのドアを開けて中に入ると、窓際のデスクに主任の姿があった。
「おはよう」
磯山晴樹、38歳。この部署の主任。
さわやかで若々しく、既婚者であるにもかかわらず、主任を狙っている女子社員は多い。
飲み会の席では、必ず主任の周りには女子社員が群がっているのだ。
「あれ、主任早くないですか?今日、時間調整でお昼からの予定でしたよね?」
「あぁ、でも終わらせたい仕事があって」
「そんな仕事ばっかりしてたら、倒れちゃいますよ?」
「大丈夫だよ」
わたしはバッグを自分のデスクに置くと、そのまま部署内にあるドリンクスペースに行き、コーヒーを淹れた。
自分の分にはミルクたっぷりに、もう一つはブラックのままで。
「主任、ブラックで良かったですよね?」
わたしはブラックコーヒーを主任のデスクに置いた。
主任はわたしを見上げると微笑み「ありがとう」と言った。
すると、部署のドアが開いた。
「おはようございまーす」
入ってきたのは、同期の早坂直人だった。
彼とは同じ日に入社して以来、6年の付き合いだ。