不器用なフクロウ
飲み会の席に戻ると、ほろ酔いの米原くんが「どこ行ってたんですか?」と聞いてきた。
わたしは「ちょっとね~」と言い、テーブルについた。
「一緒に戻って来たあの男、誰ですか?」
不思議そうな顔をして、米原くんが言った。
「商品部に新しく入った奴だよ」
そう答えたのは直人だった。
わたしは「岩城さんだよ」と言った。
「菜月さん、あいつと一緒に居たんですか?」
「うん、話してた」
「あいつ、絶対菜月さんのこと狙ってますよ!」
「そんな狙ってるだなんて」
苦笑いを浮かべわたしがそう言うと、直人は「あいつ気に食わねぇ」と呟き、お酒をグイッと喉に流し込んでいた。
21時を過ぎると、二次会で場所を変える為にお店を出た。
主任と米原くんは女性社員に囲まれ、二次会に誘われており、逃げ出せずにそのまま流れて行くようだ。
わたしは米原くんに「菜月さんも行きましょうよ~」と誘われたが、二次会には行く気になれず「わたしは帰るわ」と断った。
「じゃあ、俺も帰ろうかな」
そう言ったのは岩城さんだ。
しかし、沙智子と東さんが岩城さんの両腕を掴み、「主役が早々帰っちゃダメでしょ!」と言った。
「そうだよ、主役は早々帰るもんじゃない」
一番最後にお店から出て来た直人が言う。
わたしはそんな直人に「直人は二次会行かないの?」と聞いた。
「俺も帰るよ。こんな時間に菜月一人で帰るのは危ねぇだろ」
「そんな気にしなくていいよ」
「気にするよ、変な虫がついたら困るしな」
直人はそう言うと、横目で岩城さんを見た。
岩城さんはフッと笑うと「随分、朝永さんに優しいんですね。他の人には素っ気ないのに」と言った。
何だかピリピリとした雰囲気が漂い、戸惑うわたし。
直人は冷めた表情を崩すことなく、岩城さんを見つめたまま「菜月に変なことしたら、ただじゃ済まねぇからな」と言葉を放つと、わたしに向けて「帰るぞ」と言い歩き出した。
わたしは直人と岩城さんを交互に見ると、岩城さんに向けて「すみません、お疲れ様でした」と言い、沙智子に「お疲れ!」と言ってから急いで直人の背中を追った。
直人はポケットに手を突っ込みながら、いつもよりもゆっくりとしたペースで歩いていた。